飲食業界はなぜブラックかA 営業時間の問題

 飲食がブラックな労働環境になる理由の一つに、単純な部分として、営業時間と営業日の問題があります。

 普通のレストランの稼ぎ時と言えば、やはり昼食・夕食となるでしょう。
 
そうすると、ランチの12時頃〜15時頃、ディナーの17時頃〜21時頃と、その2ピーク時間に勤務することは自然な流れです。

 そうすると、12時〜21時という勤務体系が必然的に発生します。
 これだけなら、9時間勤務なので、間に一時間休憩を取れば実働8時間となり、一般の会社や役所と労働時間は変わりません。

 しかし、飲食店は営業時間だけに仕事があるわけではありません。

 営業するためには仕込みがあります。
 お店の規模にもよりますが、食材を納品して、野菜を洗ったり、切ったり、ソースを作ったり、スープを仕込んだり。

 そして、営業時間終了後には、片づけがあります。
 どれだけ営業時間内に並行して行っていても、全てのお客さんが帰った後でなければ、出来ない片づけ・掃除は山ほどあります。
 
その上で、売上管理などの事務仕事もあり、営業時間終了後も、仕事はすぐに終わりません。

 そんなわけで、結局、勤務時間は、9時〜23時くらいは当たり前になります。
 個人でやっている店で、市場にまで鮮魚を見に行くとなると、もはや朝5時出勤とかになります。

 それに、営業時間は、店によってまちまちで、11時開店の店もあれば、朝食営業をしている店もあり、居酒屋のように深夜営業をやっていたり、チェーン店などでは24時間営業の店もあります。

 そして最大の問題が、営業日。
 定休日が週に2回ある店なんて、滅多にないでしょう。
 あっても週1回で、チェーン店などは、たいがい年中無休です。

 飲食で長時間労働が発生しやすいのは、こうした営業時間と営業日の問題がまずあることは間違いありません。

 そもそも飲食に限らず、事務だろうと金融業だろうと、無茶な業務量をベースにされたら、休めなくなります。
 アニメ業界なんかもそうだと言われていますね。物理的に納期に間に合わない、と。

 ただ、一般企業の場合は、土日休むことをベースに業務を回しているから、休めるだけの話なのです。
 しかし飲食では、休まず営業することベースにしているから、どこかに無理が生じるのです。

 そんなのは交代制にすれば良いと思うかもしれません。
 ですが
、レストランの業界では、それがうまくいきません。
 
飲食の労働時間がブラックになる本質は、実は営業時間そのものより、そこにあります。

 飲食は客商売なので、お客さんが入ってきたら対応しなければなりません。
 だから、どんなにシフト制にしていても、店が混んでいたり、予定以上の来客で仕込みが追い付かなくなったら、残って対応するのが暗黙の了解というか、そうした空気になるのが飲食店です。

 店がてんてこ舞いだったり、片づけが山ほど溜まってるのに「時間なので」なんて言って帰るのは、アルバイトならまだしも、正社員でそれは難しいのが飲食業界です。

 これは、業界体質もありますが、むしろ日本の顧客体質です。
 例えばドイツでは、小売店などでは閉店間際だとサービスが悪くなるのは当然という国民認識があります。
 どんなに店が忙しくても、客が並んでいても、休憩に行くときや、違う仕事をしている時は、客が従業員に声をかけたところで「俺に言うな」と返されるそうです。
 これが日本だったら、「今は休憩中なんで」なんて返したらクレームものです。
 美食の国フランスでも、飲食店の雇われ従業員が定時で帰るのは当たり前で、それによってサービスや料理提供が乱れたとしても、それなら仕方ないとお客さんが受け入れるそうです。

 また、よくある話で、アルバイトの欠勤です。
 
最近の飲食店は、社員数が少なく、特にチェーン店などは、社員が店長一人だったりするため、アルバイトが欠勤すると、休みだろうが何だろうが、出勤しなければならなくなります。
 そもそも、アルバイトが足りなければ、社員やオーナーが連勤や長時間勤務してシフトを埋めなければなりません。
 
このため、交代制やシフト制がうまくいかない、という話になります。

 同じ話は、コンビニなどでも聞く話です。

 結局これらは、本質として経営の問題に行き着きます。

 そもそも、営業時間を決めるのは経営者です。
 営業が回らない、休みが取れないリスクがあるなら、定休日を作れば良いだけの話です。
 営業時間も、短くすればよいだけの話です。
 欠勤が出れば、休業すれば良いのです。

 なのに、これだけ飲食はブラックだと言われながら、なぜ長時間営業・年中無休をするのか?
 そこに、問題の本質があります。

 例えば銀行は、一般的に窓口は15時に終了し、その上土日は休みだったりしますが、これを「営業時間が短い」「窓口が閉まるのが早い」「殿様商売だ」と、不満に思うお客さんは沢山いるはずです。

 しかし銀行は、営業終了後にお金を数えたりする業務があるので、15時以降も営業を続けていると、業務終了時間がどんどん後ろ倒れしてしまうので、営業時間を15時で切るわけです。

 工場だって、例えば固定の月給制なら、週休2日制より、週休1日制のほうが人件費当たりの生産性は当然上です。
 固定費などの面で考えても、休みなしに稼働したほうが生産効率は上がります。
 潤沢に人材がいて、交代制がスムーズにいくなら、365日稼働するに越したことはありません。

 しかし、休む工場もあれば、休まない工場もあります。
 結局は、経営者がどう考えているかです。

 一方、先にも言ったドイツなどは、飲食や小売店でも、土日休みの店なんて当たり前です。
 交代制についても、フランスのレストランでは、時間になったら、店が忙しかろうが何だろうが帰るのが当たり前です。

 ヨーロッパでこれが成立するのは、特殊な仕組みや画期的なシステムがあるわけではなく、彼らはそういう「国柄」で、休日は店を営業してはいけないという「閉店法」という法律があるくらだからです。
 
この、国柄の違いによる慣習の差が、何よりも大きい。

 そうした国では、担当者が休日の時に何かが発生しても、担当者が休みなら仕方がない、仕事が中途半端な状態でも、定時になったらそれを放置して帰っても仕方がない、と、社会が容認している、という点が日本とは完全に異なります。

 ドイツの小売り店では、例えば閉店時間が近づけば、お客さんがまだ買い物をしていても、片づけやら掃除をガンガンはじめるそうで、閉店間際にお客さんがやってきたら、雑な対応をされるのはよくあることだそうです。

 これが日本だったら、「こっちは客だ」「まだお客さんがいるのに」とか、「閉店間際でも同じ客だろ」といったクレームが簡単に来るところでは、そうはならないのです。
 フランスのレストランのお客さんも、従業員側の都合というものが、日本よりもはるかに許容されているようです。

 インパルスという芸人のコントで、閉店間際の中華料理店に来た客に対して雑な対応をするネタがありましたが、youtubeのコメント欄には、飲食などでのアルバイト経験のある人からは、共感のコメントが多数書かれています。
 一方、そういう経験のないだろう人からは、「それが仕事だろ」「嫌なら辞めろよ」みたいなコメントが書かれ、これこそが日本人の今の意識を表していると思います。

 これが意味することは、飲食における長時間労働の最も根源的な部分は、多分に「人間的な話」ということです。

 現象としては、社員配置数が少ないとか、アルバイトの欠勤問題などはありますが、全ての本質は、日本人の、そして飲食業界の内部と顧客側の慣習・認識によるものが大きい、と思います。

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