残念映画「ジャンパー」 

 駄作映画は山ほどあります。
 ただの駄作は批評するまでもありませんが、もう少し上手く作れば名作になり得たろうに、もったいないと感じる「残念映画」の解説です。

 「ジャンパー」は、2008年のアメリカのSFアクション映画です。
 ある日、テレポーテーション能力に目覚めた学生が、その能力を使って優雅な生活を満喫してると、「超能力者は社会の害悪」とみなし、その抹殺を図る組織に狙われる……という話しです。

 設定自体は面白いのですが……

(以下、ネタばれあり)

 残念な部分を解説していきます。

1.あほ過ぎる主人公が不自然

 ネットでも批判される理由として1,2を争う、重大なマイナスポイント。
 超能力者の存在を知り、その命を狙う組織の存在を知ったというのに、わざわざ8年も会ってない人物に会い、呑気にデートして超能力を使いまくる主人公があほすぎる。
 高級ホテルにたやすく侵入し、超能力の存在を知り、専用の武器まで操る謎の存在に出会ったら、色々な可能性を想像し、護身用の武器を携帯したり、迂闊な行動は控えるようにするのが通常の思考でしょう。

 命を狙われている主人公が、銃の一つも持とうとしないのもおかしい。
 自由に銀行で金を盗みまくりの主人公なら、銃の一つや二つ、どこかから盗んでくるのはわけないでしょう。

 その上、昔のいじめっ子のマークを、超能力を使って金庫に閉じ込めるとか意味不明。
 超能力でそんなことをしたら、自分がここにいますと言ってるようなもの。
 マークに「俺の事喋りやがって!」とか言ってるけど、主人公に何の恩も義理もないんだから喋られて当然。まったくもって、筋の通らない展開過ぎる。

 ただ、よく見る批判のもう一つ、「主人公にクズすぎて共感できない」については、個人的には気になりませんでした。
 主人公が私欲でドロボウしてるだけ、というのがクズ認定の最大の理由になっていますが、それを言ったらドロボウが主人公の「ルパン三世」の人気は説明できない。
 劇場版「カリオストロの城」以降、義賊っぽい設定がついたものの、基本的にルパン三世はただのドロボウです。でも人気はある。

 結局のところ、主人公がルパンのように賢くて魅力ある人物ではなく、「あほすぎて魅力がない」ことが一番の問題だと思います。

2.人目につくところで超能力使い過ぎ

 あほすぎることと少し重なりますが、なぜ人のいるところで無駄に能力を使いまくるのか。
 
そもそも主人公の能力がバレたシーンは、バーの店内でテレポートしたのを見られたのが原因だが、あんな人だらけのバーの店内で、たかだか数メートルのために超能力を使う意味がわからない。

 命を狙われてるのに、人前で使いまくり。こんなの、狙ってくださいと言ってるようなもの。
 あほすぎるをこえて、リアリティが薄れてしまいました。

3.グリフィンもあほすぎる

 グリフィンは、10年以上パラディンのメンバーを狩り続けてるジャンパーですが、その狩り方が爆弾とか火炎放射器とか、手間のかかる上に不確実な手段をとる意味が分からない。

 超能力使えば銃だって盗みまくりでしょう。
 パラディンのメンバーに出会ったら、背後にテレポートして銃で撃てば終わりです。
 命が狙われているのに、なぜか丸腰のまま構え、武器を持ち出したかと思えば火炎放射器……って、なんでやねん!

 パラディン側が、宗教的な理由からか、とどめはナイフにこだわるがために、銃は使わず捕獲機を使用するのはまだ分かります。
 でも、パラディンを「狩る」ことに執念を燃やしているグリフィンが、ろくに武器も持ってないのはおかしい。
 映画「エイリアン」のように、戦闘が前提にない宇宙船の中で、急場ごしらえで用意できた武器が火炎放射器だった、というのはわかる話ですが、必然性もないのに謎に非効率な戦い方をされると、ばからしくなってしてしまいます。

 部屋に爆弾を仕掛けた部分でも、テレポートしたら即爆破だろ。
 呑気に主人公とおしゃべりしてるから、ミリーが捕まったりするんだよ。
 ていうか、そんな簡単にミリーを捕らえられる場所にパラディンがいるのなら、むしろミリーを捕らえるなんて意味のないことをせず、裂けめを通ってこっちにくるだろ。色々おかしい。

4.主人公とグリフィンの会話が成立しなさすぎ

 主人公とグリフィンとの間で、意思疎通ができてなさすぎ。
 もっとも、

 ・特殊な事情に追い込まれた主人公は、関係者への事情説明をしぶる
 ・命を助られた主人公は、状況への怒りをなぜか恩人にぶつけて逆切れする
 ・突然あらわれた味方っぽい人物は、混乱する主人公にろくな説明をせず、むしろ無駄に突き放す

 というパターンは「アメリカ映画の3原則」といえるくらいの「お約束」です。
 しかし、最初から最後まで意思疎通がないのはさすがに変というか、見ていてストレスでしかない。

 そもそもグリフィンが「俺はつるまない」と一匹狼を気取るが、じゃあなんで主人公に「俺はずっと見ていた」とか言ったり、主人公を助けた?
 自分からからんでおきながら、主人公が共闘を求めると拒否する。ツンデレか(笑)

 主人公も、命を狙われてるんだから、パラディンのことを根掘り葉掘り聞こうとするくらいが普通の心理。
 なのに主人公は、自分の理解者となり得る貴重な存在であるはずのグリフィンに対し、無意味に距離を置く。
 なんでやねん。

 で、いざ主人公が協力関係を迫ると、グリフィンはまともに会話もせず、日本で無意味なドライブ。何がしたいねん(笑)

 コミュ障の謎めいたキャラの雰囲気を出したいのかも知れないが、そこに意図や極秘作戦があったのならともかく、結局のところ回りくどい爆弾設置をしただけで退場……

5.ローランドが無法者すぎる

 パラディンは公的機関ではなく、そのメンバーでアルローランドは色々な現場に偽造の身分証を使って侵入してる、ある意味無法者。
 それ自体はともかく、警察署で刑事を殴り倒したり、主人公の父親を無意味に殺して放置したりと、雑な行動が多すぎる。ミリーの命を狙うのも目的不明。
 こんなの、ジャンパーを捕まえる前に、ローランドのほうが警察に捕まるわ(笑)
 
「関係する者はみな殺される」というが、その設定自体がおかしい。
 
いっそ、ヒットした日本のドラマ「SPEC」のように、政府の特命機関とかにしたほうが、よほど説得力があった。

 

 ……と、色々書きましたが、「超能力に目覚めた主人公と、超能力者を抹殺しようとする秘密結社」という構図自体は悪くない。
 とにかく主人公とグリフィンをもっと賢くして、パラディンと頭脳戦をするような展開だったら熱かっただろうに……と思わせられる、もったいない残念映画でした。
  

 

 


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